【特集:ドライブレコーダーの進化に迫る】

SNSやソーシャルゲームなど、今やスマートフォンさえあれば多様なコンテンツに触れることができるため、「生きていくには欠かせない」という人は多いだろう。その一方、インターネットの進歩やスマートフォンの普及が急速に進んだことで新たに表面化したのが、ネット・ゲーム依存という問題だ。依存症と聞くと、「自分には関係ない」と感じるかもしれないが、実は依存症になるリスクがある人は大勢いる。

令和元年に道路交通法が改正され、クルマの運転中にスマートフォンなどを使用するいわゆる「ながらスマホ」の罰則が強化(※)された。社有車の事故防止を考える際、従業員が「運転中についスマホを見るのがやめられない……」という原因で起きる事故は、なんとしても避けたいはず。しかし、「運転中には使うな」と言うだけで効果が出るとは限らない。具体的な施策を検討する前に、まず依存症の正体を知り、理解を深める必要があるだろう。

今回は、ネット・ゲーム依存の研究や診療に携わっている、神戸大学大学院医学研究科の曽良一郎氏に話を聞いた。

※参考:政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201707/2.html

2000年代、スマートフォンの普及とともに表面化した依存症へ

――曽良先生は「デジタル精神医学部門」のご所属ですが、どのような分野が専門なのでしょうか?

曽良氏:私が元々、専門とするのは精神薬理学です。脳を一つの臓器として見て、薬物の作用から脳の機能、病気の成り立ち、あるいは治療方法を組み立てるのが専門領域です。特にアメリカ国立衛生研究所(NIH)で研究していた薬物依存のメカニズムが、現在の私のベースになっています。

――専門外来も設けているネット・ゲーム依存については、いつごろから取り組みはじめたのでしょうか?

曽良氏:ネット・ゲーム依存は、インターネットの普及に伴い出現した新しい依存症です。2000年代にスマートフォンが急速に普及し、SNSやオンラインゲームが社会生活の一部となったことで、行動嗜癖(こうどうしへき)に分類される新たな精神疾患として注目されるようになりました。そうした状況をずっと注視していて、薬物依存に加えていつか診療を手掛けたいと考えていました。2018年に神戸大学医学部の付属病院で診療を始めて、もう5年目になります。

神戸大学大学院医学研究科 デジタル精神医学部門 特命教授 曽良一郎氏

――ネット・ゲーム依存とは、どんな病気なのでしょうか?

曽良氏:具体的な定義は4つあります。1つ目が「使用がコントロールできない」、2つ目が「使用を優先し、ほかのことに関心を示さなくなる」、3つ目が「仕事や家庭などの社会生活に支障をきたしている」そして4つ目が「これらの状況が12カ月以上続いている」ことです。

ネット・ゲーム依存4つの定義

――実際、依存症に該当する人は、どれくらいの割合で存在するのでしょうか?

曽良氏:医療の世界では有病率という言い方をしますが、ネット・ゲーム依存の有病率は報告によって幅があるものの人口の数%ほど。男性が3%で女性が1%くらい存在すると推測されています。

――例えば「生活習慣病予備軍」のように、ネット・ゲーム依存の場合も「依存症になるリスクが高い人」は存在するのでしょうか?

曽良氏:ネット・ゲーム依存や過剰使用については、大きく3つの階層に分類できます。今やスマートフォンなどを通じてインターネットを使うことは日常生活の一部ですから、使わない人はほとんどいないでしょう。ただ、多くの人は健全に使用していて、そうした人たちは図に示した最下層に分類できます。

「過剰に使用し、依存症のリスクがある人」は真ん中の階層に位置していて、依存症と診断される方々の5倍から10倍は存在すると推測されています。

ネット・ゲーム依存の階層図
(曽良氏提供資料をもとに作成)

「ながらスマホ」の厳罰化。職場での対策はどうすれば?

――道路交通法の改正で、運転中の「ながらスマホ」の罰則が強化されました。ネットやゲームを手放せない人が「ながらスマホ」をしてしまうケースもあり得ると思いますが、営業車などの社有車を持つ企業を想定して、職場で取り組めることはあるでしょうか?

曽良氏:運転中にスマートフォンをどう使うかによって対策は異なると思います。カーナビアプリとして使う人もいれば、オーディオとして使う人もいますよね。スマートフォンが運転に欠かせない人は多いと思いますし、大半は健全に使用しているでしょう。

その上で、「ながらスマホ」は法律違反と定められたわけですから、基本的に従業員の飲酒・酒気帯び運転が発覚した場合と同じように、職場での対応を考えてもいいのではないでしょうか。