【特集:ドライブレコーダーの進化に迫る】

スマートウォッチの普及が進み、ウェアラブルデバイスは私たちの暮らしに身近な存在となった。デバイスから取得するバイタルデータは暮らしを便利にするだけでなく、事故を未然に防いだり、職場環境を改善したり、さらにアルコールチェッカーとの連携であったり、現場で大いに活用できるポテンシャルを秘めているという。

人とクルマをつなぐHMI(Human Machine Interface)として、ウェアラブルデバイスはどのような進化を遂げるのか?また、ドライブレコーダーとの連携で価値はより高まるのか?

伝統産業に携わる繊維メーカーから、ウェアラブルを用いたIoTソリューションカンパニーへと変貌を遂げたミツフジ株式会社で、代表取締役社長を務める三寺歩氏に話を聞いた。

西陣織からウェアラブルへ


――ミツフジはもともと繊維メーカーとして創業したそうですね。

三寺氏:1956年に、西陣織の帯を製造する工場として創業したのが始まりです。その後、オイルショックなどの不況を経験しながら、繊維商品の加工・生産を請け負うようになり、だんだん厳しい価格競争にさらされるようになりました。

――苦境を乗り切るために、どんな取り組みをしたのでしょうか?

三寺氏:先代の社長である父が会社を継いでから、高機能な繊維の開発に取り組みました。1990年代に抗菌防臭作用や電磁波防止といった機能を持つ銀に注目し、銀めっき繊維「AGposs(エージーポス)」を開発しました。

銀めっき導電性繊維「AGposs」※ウェアの裏側(写真左)に電極となる銀めっき繊維(写真右)が編み込まれている

――当初はどんな用途で使っていたのでしょうか?

三寺氏:防臭作用を持つ靴下や、電磁波シールドエプロンといった製品を作り、高い評価を得ていました。ところが、今では抗菌防臭の靴下は格安でどこでも手に入るようになり、これらの分野はここ数十年で大幅に価格が下落しました。

――当初打ち出していた機能だけでは厳しくなったんですね。

三寺氏:その後、銀めっき繊維が持つ「導電性」が注目されるようになったのを機に、ビジネスの軸足をそちらに置くように転換しました。

――新たなニーズが見出された背景に、ウェアラブルデバイスがあったのでしょうか?

三寺氏:実際、ウェアラブルデバイスを開発したいというニーズがあり、銀めっき繊維がよく売れるようになりました。ただ、繊維だけでウェアラブル製品を開発できるわけではありません。

バイタルデータを取得するためのセンサーや、データを送信するトランスミッター(通信装置)、データを処理するアルゴリズム、さらにはクラウドサービスの構築など、さまざまな技術が必要になります。

――ウェアラブルデバイスは多様な技術の組み合わせで完成するんですね。

三寺氏:全てを一社だけで担うのは大変で、そこがウェアラブルデバイスの難しいところです。それをミツフジ一社でやろうと開発したのが、ウェアラブルIoTソリューションの「hamon(ハモン)」です。

ウェアラブルデバイスによる事故防止とは?

「hamonウェア」


――「hamon」はどんなことができるソリューションなのでしょうか?

三寺氏:着衣型の「hamonウェア」の場合、センサーから取得した心電図データを基にして、ストレスの度合いや眠気の計測、暑熱リスク管理などが可能です。

例えば、工場で作業する従業員の暑熱リスクが高まったらシステムが通知し、スマホアプリでセルフモニタリングをしたり、PCで集中管理をしている管理者が休むように指示したり、現場を見守るアラートツールとして活用できます。

また、スマホを持ち込めない現場向けに、スタンドアロン型で、より手軽に装着できて色と振動で暑熱リスクを着用者に事前にお知らせする、暑熱対策に特化したリストバンド型の「hamon band(ハモンバンド)」も開発しました。今夏には、着用者本人だけでなく、現場の管理者も着用者全員の一斉管理が可能な、SIM搭載のスマートウォッチタイプも販売します。

「hamon band」(写真右)と、今夏発売予定のスマートウォッチタイプ「MITSUFUjI 03」(写真左)

――工場の作業現場だけでなく、社有車を運転するシーンにも応用できそうですね。

三寺氏:これまで複数の運送事業者でテストをした実績があります。今後は営業車向けの展開も始まる予定です。

体調を可視化して早めに対処することができれば、社有車の事故リスクを下げることができます。営業車はいろいろな場所へ出向く必要がありますから、眠気や暑熱リスクが高まる状況も起こり得ます。それらのリスクを測るアルゴリズムを使いながら、バイタルデータをリアルタイムで管理することが可能です。

――安全運転管理者が事故防止に活用することもできそうですね。