【特集:ドライブレコーダーの進化に迫る】

社有車の事故防止や安全運転管理は、企業が継続的に実行できる仕組みをつくることが重要だ。一方で、日々の業務に追われて人手不足の企業の場合はそこまで手が回らず、どうやって取り組めばいいのかわからない場合もあるだろう。

そこで、今回は社有車の管理やそのルールづくりに詳しい、大阪社労士事務所の桑野真浩氏(以下、桑野氏)と、ながひろ社労士事務所の永廣勇資氏(以下、永廣氏)にインタビューを行った。社内のルールづくりや運用方法はどうすべきなのだろうか?

社有車の利用ルールを社内規定に盛り込む必要はあるのか?


――社会保険労務士(以下、社労士)は働く人たちを支える専門家ですが、仕事の中身は意外と知られていないかもしれません。まずは業務内容について教えていただけますか?

永廣氏:社労士は、その名の通り「社会保険」に関する業務を行うのが主な仕事です。年金や健康保険、そのほか雇用保険や労災保険に関する書類作成や手続きなどを行います。

――企業内に有資格者がいる場合と、桑野先生と永廣先生のように事務所を開いている場合がありますよね。後者の場合は企業と契約を結ぶのですか?

永廣氏:はい、開業している社労士の多くは企業の顧問として契約し、総務部門の業務に関する専門的な相談にお応えしています。それも社労士の大事な業務の一つです。

――コンサルタントのような業務もあるんですね。ところで、お二人が所属する大阪社労士事務所では、「社有車の運用ルール」についてもWebサイトで公開していますよね。これも社労士のお仕事と関係するのでしょうか?

永廣氏:はい、就業規則などの作成や相談も業務の一環ですからね。労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用している事業所では、「就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない」とあります(※)。この就業規則を作る際には、「全ての社員に当てはまる決まりは就業規則に盛り込む」という考え方でルールを定める必要があるんですよ。

※労働基準法第89条から一部抜粋

――社有車を運転するのは必ずしも全ての従業員ではないですよね。それでも就業規則に盛り込んでおく必要があるんですか?

桑野氏:「全員」の定義は、あくまで可能性の話なんです。実態として全員が運転しているかどうかではなくて、使う可能性があるなら就業規則として定めておきなさいという考え方です。

――なるほど、社有車を主に営業目的で使っていても、内勤の社員が社有車で外出する場合はあるでしょうし、異動で営業部門に配属される場合もありますしね。「全員に該当する可能性がある事項」はあらかじめ規則に明文化しておく必要があるんですね。

重要なのは「業務」と「業務外」の線引き

――社有車は通常の業務に加えて、通勤や出張などいろいろな利用シーンがありますよね。どんなルールを盛り込むのがよいのでしょうか?

永廣氏:考えておくべきなのは、「業務利用」と「業務外利用」の線引きです。特に業務外の利用については、会社の管理が及びにくい点なので明文化しておくべきでしょう。例えば、業務目的と通勤目的で運用する場合、以下のポイントを最低限盛り込んでおく必要があります。

[社有車管理規定のポイント](業務目的+通勤目的のケース)
(1) 社有車管理規程(車両管理規程)で、業務外使用の場合は企業に責任がないことを明確にする。
(2) 運転日報(運行日誌)で使用区間を管理する。
(3) 使用許可申請書(兼誓約書)で管理責任者が許可申請を審査する。
(4) 年に1回程度は、運転免許証を現物でチェックする。
(5) マイカー通勤や公共交通を利用する従業員とのバランスを考え、通勤時の使用料や経費負担を定める。
(6) 駐車場を確保しているか確認する。

(原案:大阪社労士事務所)

――しっかりルールを決めておくと、使う側にとってもわかりやすいですよね。ただ、人手不足の中小企業などを想定すると、管理の手間が増えてしまう可能性もあるでしょうか?

永廣氏:確かにそうですね。実際、運転日報の提出をルール化している場合でも、用紙に手書きで記入したり、Excelの書式に打ち込んだりして管理している会社が多いと思います。

――デンソーテンの通信型ドライブレコーダーには、取得した移動データをもとに運転日報を自動で作成する機能があります。こうした機能は業務の省力化や効率化にも貢献できるでしょうか?

永廣氏:貢献できるのではないでしょうか。運転日報の管理は、書類を書く手間と、管理する手間が二重で発生します。自動で作成できるようになれば、それらの時間を削減できますし、浮いた時間で営業活動など本来の業務ができますから、効果はあるように思います。

運転日報のサンプル画面

今後見込まれるシェアリングについてはどう対応するべき?

――昨今では、大手自動車メーカーが社有車を休日に利用するための車両管理システムを販売する動きもあります。遊休資産となっている車両をシェアリングなどで有効活用しようという取り組みについてはどのように考えていますか?

永廣氏:まず、福利厚生の面から考えるといい取り組みだと思います。一方で、先ほどと同様にここでも「業務利用」と「業務外利用」の区別をきっちり考えておく必要があると思います。また、コストの負担をどうするかも考えないといけないですね。

――負担するコストとは、ガソリン代などの維持費ですか?