【特集:ドライブレコーダーの進化に迫る】

ここ数年、高齢運転者の免許返納問題について盛んに議論されるようになった。加齢に伴い認知機能が低下するのは誰にでも起こり得ることだが、そのような機能低下が原因となる交通事故は防がなければならない。
そこで重要になるのが「高齢者が安全に運転できるか」を適切に判断することだ。当記事では、高齢者の認知機能と運転可否判断などを研究している、福岡国際医療福祉大学の堀川悦夫教授(以下、堀川氏)に話を聞き、高齢化社会におけるドライブレコーダーの可能性について考えていきたい。

高まる運転可否判断の重要性

――今回は堀川先生に高齢運転者に関するお話を聞きながら、どうすればドライブレコーダーが課題解決に貢献できるのか考えていこうと思います。早速ですが、現在高齢者の運転可否はどのように判断しているのでしょうか?

堀川氏:まず、道路交通法によれば75歳以上の方は運転免許の更新時に認知機能検査(※)を受けなければなりません。そこで記憶力や判断力の低下が著しく、認知症のおそれありとの結果が出た場合は、運転可否を判断するため臨時適性検査や医師の診断書が必要になります。75歳以上の免許取得者であれば全員が対象となるため検査自体が非常に混み合っており、半年待ちの教習所もあると聞いています。それに伴って、医療現場でも運転可否を判断するための診察が必要となる場面が増えている状況です。

※記憶力や判断力を測定する検査。公安委員会(警察)または委託された教習所などで受けることが可能。なお、70歳から74歳の運転免許取得者の場合は高齢者講習の受講が必要で、75歳以上の場合は認知機能検査と高齢者講習の受講が必要となる。
【参考】警察庁Webサイト:https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/ninchi.html

――医師の診断では、どういったことを検査するのでしょうか?

運転可否判断・運転リハ・再開の流れ(資料提供:堀川氏)

運転可否判断・運転リハ・再開の流れ(資料提供:堀川氏)

堀川氏:図で示したのは、私が佐賀大学医学部附属病院で構築してきた独自のパス(流れ図)です。まずは問診や神経学的検査、MRI脳波など、神経内科などの一般的な流れで診察やいくつかの検査(認知機能低下のスクリーニング※を含む)が行われ、必要に応じて視力・視野その他の機能を測定します。さらに、必要な方に向けて行う追加の神経心理学的検査や運転可否判断に必要な検査と計測・解析が私の主な担当です。

※より詳しい検査や評価を受けるべきか否かを判断するための、”ふるい分け”を行うこと。
このような第一次の検査や評価を行うことで、検査などにかかる人的・時間的コストを削減でき、対象者の負担も少なくて済むなどの効果が見込まれる。(脚注監修:堀川氏)

――認知症診断に加えて、運転に関わる認知機能をチェックする流れですね。

堀川氏:しかし、医師も医療スタッフも患者さんが普段運転している様子を具体的に見ているわけではありません。どうしても運転可否を判断する材料が不足する場面が起こり得ます。そこでわれわれが導入したのが「運転シミュレーター」です。

診断補助として院内での運転手シミュレータ検査 (資料提供:堀川氏)

診断補助として院内での運転手シミュレータ検査
(資料提供:堀川氏)

――実際に運転する環境に近づけて検査しているんですね。

堀川氏:ところがシミュレーターだけでは判断できない場合もあります。そこで、自動車教習所に協力していただき、教習所内や公道で実車評価も行う仕組みです。さらに、われわれはより正確に検査・測定を行うために、複数のセンサーを車両に搭載し、急ブレーキなどの危険な挙動を記録できるような小型の計測システムを用いて同時測定をしています。病院内で実施する検査と教習所の指導員による評価、さらに車両挙動計測の結果を組み合わせて、総合的に運転可否を判断するシステムです。これまでにかなりの症例数を経験して、疾患と運転行動の関連についてエビデンスにもとづく判断基準の作成を目指しています。

――そこまで精細な工程を経て運転可否の判断を行っているとは驚きです。

堀川氏:実はここまでやってもまだ難しい点があるんですよ。運転可否を判断する際に、運転継続・運転断念という選択肢以外にも、条件付きで運転が可能とか、再教育を受ければ運転継続が可能だと思われる場合が存在します。しかし、どんな要因が影響してこのような結果に結びつくのか、明確な基準が得られていないのが現状です。収集したデータの解析は進めているものの、もっと深い分析が必要だと思っていて、われわれは今後これらの評価プロセスに機械学習を導入したいと考えています。

期待するのは「通信型」だからこそ実現できる迅速さ

通信型ドライブレコーダーのシステム概要

――デンソーテンでは、営業車両などの社有車を主なターゲットに通信型ドライブレコーダーのサービス展開を行っています。クラウドサーバーと連携して、車載器で録画した映像をAIが自動で抽出する機能などが特徴です。堀川先生の研究に貢献できる点はあるでしょうか?

堀川氏:運転可否判断を下す前に、経過観察が必要な患者さんもいます。そのエビデンスとして、現在ドライブレコーダーを活用しています。ただ、現状採用しているのはドライブレコーダーに挿し込んだSDカードへ運転映像を記録し、定期的に回収して分析する方法です。通信型ドライブレコーダーを活用すれば、映像をSDカードに記録するだけでなく、クラウドに集約できるので、非常に管理しやすくなるのではと考えています。

――患者さんの立場で考えた場合、通信型ドライブレコーダーを導入するメリットはあるでしょうか?