DENSO TEN Technical Review
デンソーテンテクニカルレビュー
シミュレーションを活用した車載Ethernetのノイズ耐性に関する設計要素検討
- 分野
- EMC、Ethernet
はじめに
近年の自動車業界では安全機能や自動運転機能の発展に向け、大容量・低遅延での信号伝送が求められています。また搭乗者の安全に関わることから、車載通信は外乱によって誤動作を起こしてはならず、高いノイズ耐性が必要になり、その実現へ向けて取り組んでいます。新たな通信方式として、車載Ethernet 1000 Base-T1(以下、1000 Base-T1)が注目されています。しかし、各設計要素のノイズ耐性に対する影響の大きさは分かっていません。そこで、シミュレーションを活用し各設計要素のノイズ耐性に対する影響の大きさを求め、設計指針を作成しました。
1000 Base-T1が誤動作を起こす要因
1000 Base-T1は差動伝送方式です。差動伝送ではレシーバでD+とD-の電位差を読み取ります。そのため、ケーブルなどから重畳するコモンモード(同相)ノイズがキャンセルされます。しかし、D+とD-でバランスが崩れた場合、D+とD-で到達する信号の大きさ・タイミングが異なるため、ノイズをキャンセルすることができず、ノイズが残存し、製品誤動作の要因になります。本現象はノイズの一部がコモンモードからディファレンシャル(差動)モードへ変換されることから、モード変換を起こすと表現されます。 モード変換が大きくなると、ノイズがキャンセルされずノイズ耐性が低下します。そのため、高いノイズ耐性を実現するためには差動伝送路のモード変換を小さくする必要があります。
今回の取り組み
ノイズ耐性に関する設計指針を作成するため、基板アートワーク設計や部品選定がモード変換へ与える影響とその大きさについて検証を行いました。シミュレーションは、電磁界シミュレーション(配線の伝送特性の算出)から回路シミュレーション(回路部品の特性を追加)の流れで実施しました。基板アートワーク設計の検証では各設計パラメータの影響だけでなく、基板の製造クラスが影響するか調査するため、基板の仕上がり精度(製造バラツキ)を与えた条件においても検証を行いました。また、部品選定では、各部品がもつ定数の許容差に着目し検証を行いました。検証ではシミュレーションを活用して行い、電磁界シミュレーションにて配線の伝送特性の算出し、回路シミュレーションにて回路部品の特性を追加しました。そして、モード変換によるノイズ耐性を表すミックスモードSパラメータ Sdc11にて結果の評価を行いました。その結果、基板アートワーク設計について4点、部品選定について3点、計7点の設計指針を作成しました。
まとめ
車載Ethernet 1000 Base-T1を対象に、シミュレーションを活用して基板アートワーク設計および部品選定における各種設計要素のノイズ耐性に対する影響の大きさを求め、計7点の設計指針を作成しました。今後は、作成した指針を適用することにより、当社製品のノイズ耐性向上へ努めていきます。また、今回作成した指針の精度向上を継続的に行い、より一層のノイズ品質向上へ貢献していきます。