DENSO TEN Technical Review
デンソーテンテクニカルレビュー
局所防湿材塗布工程のための自動粘度調合装置の開発
- 分野
- 生産技術
はじめに
車載用プリント基板は、クルマの搭載位置によっては、結露が発生する場合がある。湿気や水分は、イオンマイグレーション※1と呼ばれる現象や腐食を引き起こし、誤動作や故障の原因となる。そこで、イオンマイグレーションを防止するために、プリント基板上の部品に防湿材を塗布して保護する必要がある。
環境負荷低減とコストダウンの二つの理由から、防湿材の塗布工法として、プリント基板全体に面塗布する方法から、必要箇所に対してのみ局所塗布を行う工法が用いられるようになった。
※1:水分 (湿度)が多い環境条件で電圧を印加すると、配線パターンの金属がイオン化して電極間が短絡する現象。


局所塗布を実現する材料粘度の重要性
当社では局所塗布の工法として、ジェットディスペンス方式(防湿材をディスペンスノズルから微小粒状の液滴を飛ばしてプリント基板に塗布する方式)を採用している。局所塗布は、塗布量を非常に少なくできることにより材料の節約効果が大きい反面、必要な箇所を確実に濡れ広がって保護するためには防湿材の粘度が重要となる。例えば、粘度が高い場合は濡れ広がらず未塗布部分が発生する、低い場合は必要(塗布許容範囲)以上に拡がり隣接する部品に付着しエンコーダやコネクタなどの接点部品で導通不良を引き起こす等といった問題が発生することがある。

開発方針
塗布する防湿材は原液と希釈材を混ぜて調合し、目標粘度になるように調整する。粘度は、原液の粘度ばらつきや温度依存性が大きい等の課題が多く、精度の高い調合を手作業で実施するのは煩雑で時間がかかる。特に溶剤系の材料の場合は作業環境的にも負担が大きい作業である。また防湿材は揮発性溶剤で引火性(有機溶剤で消防法の適用)があるため、万が一の火災対策として本質安全防爆構造の使用が必要となり、装置が非常に高価となる。
そこで防爆構造を一切使用しない、シンプルで安価な装置開発を目指した。
開発技術
装置を開発する上で、出てきた課題に対応するために以下の開発を行った。
(1)防爆定量ポンプを使用しないエア加圧式定量ポンプの開発
(2)材料温度変化をキャンセルする粘度補正方法の開発
(3)粘度センサを使用しない原液粘度測定方法の開発
(4)PID制御によるバッチ調合の開発
(5)デットスペースをなくしたエアバブル式かくはん方法の開発
(6)洗浄の自動化
上記開発により、従来、防湿材の粘度調合に不可欠な要素であった、材料を正確に供給する定量ポンプ、材料温度を一定に保つヒータ、原液粘度を測定する粘度センサが不要になり、市販にない特徴を持つ安価でシンプルな粘度調合装置の開発ができた。


まとめ
車載用プリント基板に防湿材を局所塗布するために重要な材料粘度の全自動粘度調合装置の開発ができた。これにより防湿材の調合粘度の精度を向上させるとともに、付帯作業(製品の機能には直接影響のない、材料供給や段取りなどの作業)の削減をできた。モノづくりにおいてこのような手付かずの付帯作業領域がまだまだ存在する。今後は、生産ラインなどの直接的なモノづくりの領域だけでなく、作業する人の助けになる付帯作業領域に対しても技術開発を行っていきたい。