DENSO TEN Technical Review

デンソーテンテクニカルレビュー

医学的エビデンスに基づく新たな感情推定モデルの提案

分野
イノベーション
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はじめに

人の感情が分かれば、周囲の状況やクラウドに集められたさまざまな情報と組み合わせることで、状況に応じたサービスの提供が可能になります。例えば、車の乗員が渋滞でイライラしているときに気分を紛らわせてくれる音楽をかけるサービス、などがあげられますが、その実現には高い感情推定性能を持った手法が必要になります。
そこで私たちは、感情推定性能の向上を目的に、脳や心臓の働きと感情との関係による医学的アプローチ(身体の働き)に基づいた独自の感情推定モデルを提案し、脳波と心拍波形から感情を推定できる技術を開発しました。

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感情推定モデルの課題

従来の感情推定モデルとして、Russel円環モデルがあります。このモデルは、縦軸、横軸からなる2軸平面上に、人の感情(楽しい、リラックス、悲しみ、退屈、怒りなど)は円環上に配置できる、という心理学に基づくモデルです。また脳波や心拍波形などの生体信号から、この2軸を算出して感情を推定する方式は提案されていました。しかし、従来の感情推定モデルでは感情推定性能は平均60%程度の精度にとどまり、サービスを提供するためには感情推定性能を向上させる必要があります。

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開発技術

私たちは、感情と身体の働きの関係に着目し、医学論文などのエビデンスを基に、軸の定義と感情の配置を行い、新たな感情推定モデルを構築しました。
【軸の定義】
感情との関係が医学的にも示されている、脳波と心拍波形を、感情推定が可能な生体信号として特定しました。脳波からは覚醒度合いを、心拍波形からは交感神経・副交感神経 の活性化度合いを指標化できことが知られています。そこで縦軸を脳波から分かる覚醒度、横軸を心拍波形から分かる交感神経・副交感神経 の活性度と定義しました。
  ※交感神経と副交感神経は自律神経と呼ばれ、前者は心身を活動に導く緊張・興奮の神経で、後者はその逆になります。
【感情の配置】
感情と覚醒度、感情と交感神経・副交感神経の活性度合いとの相関を整理し、定義した縦軸と横軸で定まる四つの象限に配置する感情を決定しました。

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まとめ

今回私たちは、医学的エビデンスに基づく新たな感情推定モデルを提案し、80%を超える感情推定性能を確認できました。これにより、さまざまなサービスに適用できる目途付けができました。今後は、実用化に向けてさらに技術の完成度向上に取り組んでいきます。

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