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機能統合により小型・軽量、システムコスト低減などを実現

そもそもVCUとはなんでしょうか。どんな装置でどんな機能を備えているのでしょうか。

黒川:車両の電源・駆動力(走る)・ボディ制御を1つのECU(Electronic Control Unit:電子制御機器)に集約した装置で車両統合制御電子機器(Vehicle Control Unit)と呼んでいます。電源制御とは、パワースイッチを押し走行用機器(電池、インバーターなど)を起動させ車両を走行できる状態にすることや、運転を終え車両をシャットダウンする制御を司る、ことです。分かりやすく言えば“車の寝起きを管理する”ということですね。駆動力(走る)制御とは、ユーザーの加速意図を示す、アクセルの踏み込み度合いに応じて走行用モーターで発生するトルクを制御すること、ボディ制御とは、ワイパーやヘッドライト、ウインカーなどの動作を管理することです。

なるほど。では一体、どのようなハードウェアやソフトウェアで構成されているのでしょうか。

芝地:ハードウェアに関しては、複数の制御を実現するために2つのマイコンを搭載し各種入出力回路を備えています。車両仕様の多少の変更にも対応できるよう、拡張性を持たせた構成としています。そこに、VCUの状態管理を統括するソフトウェアを搭載し電源・駆動力・ボディ制御の各アプリケーションが意識せずとも最適な状態で動作することができるようにしています。これにより、必要な制御のみ動作するため不正動作のリスクを軽減できるとともに電力の消費量も最小化できます。

一つのECUに集約したことによるメリットがいろいろありそうですね。

横山:そうなんですよ。小型・軽量、システムコスト低減、電費向上など様々なメリットが挙げられます。機能を集約することにより、従来個別に搭載していたECUを合わせたものと比べて体積で約60%・重量で約50%削減することができました。車両目線で俯瞰すると、例えば、ボディ機能を実現するためには、一般車両だとジャンクションボックス+ECUといった大型かつ複数の部品が必要となります。ところが、今回開発した小型EV向けでは数個のリレー+ECUの構成で実現することができる、というわけなんです。また、個々のECUを搭載する構成に対してワイヤーハーネスやブラケットなどを削減できる分もコストの低減に寄与します。さらに、スリープやIG(イグニッション)-ON /OFFなどシステムの状態に応じた一元管理を実現することで無駄な電力消費を低減する(不要な機能の電源をカット)という効果も期待できます。

蓄積してきた設計資産をベースにモデルベース開発(MBD)手法も採用

ここで少し遡っていただくことになりますが、開発に取り組むことになった背景を教えてください。

黒川:世界的な潮流として暮らしのあらゆる局面で環境負荷低減が求められています。これはモビリティに関しても免れません。例えば、欧州では、道路に対する車両の体積が大きすぎて渋滞が激しい、車両に一人か二人しか乗車しておらず移動コストに対するエネルギー消費量が大きすぎる、といった状況の改善が喫緊の課題として議論されています。移動に対してエネルギー効率の高い車両、つまり“小型モビリティ”が求められている、というわけです。また、中国などでは、自国産業の育成策としてEVにフォーカスされていますし、日本では、超高齢化社会における移動手段確保や、中山間地域における不採算路線に代わる移動手段確保の切り札として小型EVに期待が集まっています。

なるほど。このような状況を受けて当社でも小型モビリティ向けVCUを開発することになったわけですね。

芝地:はい。2018年4月頃に統合化の技術開発に着手、2018年10月頃に小型EV用VCUの企画を立案し、開発に取り組んできました。そのプレゼンテーションをトヨタ自動車様向けに実施し、当時開発中であった超小型EV「C+pod(シーポッド)」用として受注を獲得、開発にドライブがかかりました。以降、試作品を新規設計、改良を重ねながら車両の販売計画に合わせて量産体制を整えています。

実用化まで様々な困難に見舞われたかと。

横山:走行中、停車中、充電中など状態に応じて制御の対象となる機能が異なります。走行中は電源・駆動力・ボディ制御、ほぼすべての機能を使います。ところが停車中は各種制御を停止しユーザーからの操作が入るまで待機状態(消費電力モード)になります。このように異なる制御を集約したことで状態に応じてふるまい(動作モード)を変える必要が生じます。この管理をどうするかが課題となりました。そこで、各々の制御状態に適した2つのマイコンを搭載し、状態に応じて必要なマイコンだけを動作させる、ふるまいそのものを変える技術を開発しました。それから、今回は、ソフトウェアの仕様書がほとんどなく、特に入出力にかかわる部分についてはハードウェアの仕様書を見てゼロから作り込む必要があったことが大変でしたね。困難を克服できた肝は、モデリングとシミュレーションによるモデルベース開発(MBD)です。

モデルベース開発(MBD)とは。

横山:ヘッドライトの制御を例に挙げて説明します。どんな操作をすればどう光るのかを制御するアプリケーションの部分と、光るという状態を作るためにマイコンからどんな出力をすればいいのかを制御するプラットフォーム(以下:PF)の部分に分けられます。これらはどちらもソフトウェアなのですが、前者はシステムの知識を備える技術者、後者はマイコンや回路設計の知識を備える技術者が担当します。仕様書があればお互いそれに従えば齟齬なく結合します。しかし、今回はそれがなく、時間をかけて擦り合わせをする余裕もありませんでした。そこで、両者にMBDを採用し、モデルという誤解の余地のない共通言語を用いて双方の意図や制約を共有することで大幅な開発工数の短縮を実現しました。PF側までMBDを採用したのは当社では珍しいです。どちらかというとPF側が歩み寄った形にはなりますが、場合によってはこのような選択肢もある、という意識を今後根付かせたいですね。
Model-Based Development:商品の機能や性能、あるいは顧客や商品を取り巻く環境などを数理モデルで表現し、計算機によるシミュレーションを繰り返すことで制御やシステムを作りこむ開発手法

MBDについては今後の横展開も期待できそうですね。ところで、今回は開発期間も短かったとか。

芝地:そうですね。通常、ECUの開発には約4年を要しますが、「C+pod」向けに限ると約1年半と、新規ECUの開発期間としてはかなり短かったですね。当社が蓄積してきた設計資産をベースに必要な部分のみをカスタマイズし対応しました。ところが、ボディ機能については資産が乏しく最新のノウハウがなかったので、市場実績のある仕入先ICメーカの協力や、過去にボディ開発を行っていたオーソリティの知見も集め、総力戦で挑みました。そのかいあって、通常、3~4回試作を繰り返すのですが、今回は2回で完了することができ、結果的に開発費を抑えることにもつながりました。

トヨタ自動車株式会社の超小型EV「C+pod(シーポッド)」
(*)車両写真は本コンテンツ用に当社がトヨタ自動車株式会社より利用許諾を得たものです。転載、転用を一切禁じます。

統合進化と車両拡大に加えシステムサプライヤー的なアプローチも模索

現在の課題を踏まえて今後の開発計画を教えてください。

横山:今回の製品を第一世代と位置付けています。次世代については、機能統合進化と対象車両拡大、この2つのアプローチによる展開で事業の成長を企図しています。前者はセキュリティや自動運転への対応、後者は車椅子やセニアカー(高齢者向け小型EV)などを含むより小さなカテゴリーへの対応を目指している、ということです。さらに、単体の制御装置としてだけではなく、バッテリーやインバーター、モーター、HMI(Human Machine Interface:人間と機械が情報をやり取りするための手段や、そのための装置・ソフトウェアなど)などを組み合わせたパッケージとしても提供できる、いわゆる、システムサプライヤー的なアプローチも模索しています。

拡張性を持たせるというわけですね。海外にも売り込むと聞いています。意気込みと併せて教えてください。

芝地:今のところは日本・欧州・インドなどの市場が有望と見ており当社のVCUを搭載していただけるよう活動を強化していきます。規模としてはまだ小さいですが2025年以降本格的に成長すると見込んでいます。”電動駆動システム”として様々なモビリティメーカーに採用していただくことを目指します。社会に必要とされるモビリティを支える“縁の下の力持ち”として技術にさらに磨きをかけていきます。

関連情報:デンソーテンの「VCU」がトヨタ自動車株式会社の超小型EV「C+pod」に採用(2021年1月28日プレスリリース)
     https://www.denso-ten.com/jp/release/2021/01/20210128.html




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